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ミス・ルーシー・R、外的適応と内的適応

 投稿者:ヨムヨム  投稿日:2014年 3月19日(水)08時44分36秒
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  >ボクの立っている考え方は、社会とか状況といった外部が先にあって、外部からの拘束性が当人の思考を大きく形作っていると思っています。心理学は個人の記憶の中だけに収斂していき、外部への広がりがないように感じます。

マルクス的な下部構造が上部構造を決定するという認識を連想します。しかしそれよりも広い意味合いで、環境条件が個人の意識のあり方を強く規定しているとの意見だと思います。

私はフロイトの取り扱ったミス・ルーシー・Rという女性の症例を思い起こしました。この女性はある工場主の家で住込みの家庭教師をしていました。ある時期から主観的な嗅覚の異常(客観的な匂いが無いところで臭気を感じる)を訴えて診察を受けました。

手短に結論をいうと、この女性は奥さんに先立たれたこの工場主に対して内心密かな恋心を抱いた気持ちを抑圧していたところ、いくつかの事件をきっかけとして、この主人から自分が愛されていないことを知ったためにショックを受けていたのです。彼女は「焦げたプディング」のような匂いを繰り返し感じ続けるのですが、それはそうしたショックを受けた事件の際にその場で匂っていたものでした。

彼女が自分の恋心を抑圧して自覚できなかった理由は、この亡くなった奥さんは自分の母親と縁のある人で、彼女が亡くなる間際には(家庭教師として)子供の育成を見守ると約束していたからです。そのためその後、彼女は自分の恋心を抑圧した状態のまま、失恋体験を繰り返すという複雑な状況にあったのです。

この場合、彼女の失恋体験というのは外的な条件であって、分析家がそこに割って入って、工場主と彼女との恋仲を取り持つというようなことはできません。そしてそれは分析家がやるべき事柄でも無いと思います。たしかに失恋という外的条件が彼女の症状の直接的な引き金になったのですが、こうしたケースの場合に分析家ができる事は、深層心理的にどういう事態が発生したのかということを洗い出して、彼女に抑圧の存在を知らせ自分の身に何が起こったのかを悟らせるということです。ミス・ルーシー・Rの場合は自分の慕情を認めたうえで、自分の心のなかで片思いを続けると思い定めることで症状が収まって行きます。

もちろんこれはコンプレックスと抑圧が分かりやすく出ている症例としてあげられたもので、こんな風に患者が意識をかえるだけで簡単に神経症が治りますよという話ではありません。しかし外部からの拘束性が問題を起こしているはずなのに個人の記憶を見るのは無意味ではないかとの疑問には答えられているケースではないかと思います。

それからユング派の考え方には、「外的適応と内的適応」というものがあります。外的適応とは周囲の外部環境への適応の問題です。例えば転校生が新しい学校で友人を作ってうまく溶け込めるかどうかという問題です。内的適応というのは、この転校生が友達もできて成績もよくて外的にはうまく適応しているのに神経性の下痢に悩まされるような事態がしばしば起こるわけです。これは外的に適応することに必死になるあまりに本来の自分らしさという自分の内面とのつながりがおろそかにされ過ぎたために、内的な要因で適応障害を起こすという事例です。

この外的適応と内的適応とはどちらかだけを達成すれば良いというものではなくて、メンタルヘルス上、どちらもが相互に関連する非常に重要な問題です。心理学は個人の内面だけを問題としていて外部との関係は切れているとか度外視しているということは無いと思います。
 
 
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